第1回とちノきセミナーは136名もの参加者の方々にご来場いただき、おかげさまで盛況のうちに終えることができました。
魅力的なスピーカーの皆さん、世話人会の皆さん、そして今回会場に駆けつけてくださった多くの方のパワーに支えられ、有意義な会にできたことをスタッフ一同大変うれしく思っております。以下、当日の様子をレポートいたします。
第1部は森博威代表世話人によるオープニング・トークで幕を開けました。とちノきネットワーク設立に至った思いは、「できることが限られ、ロールモデルが見つかりにくい中、繋がることで見えてくることがあるのではないか」という代表の言葉に集約されています。
筆者(坂本)が「ネパール地方病院で臨床医として働くということ」と題し、「途上国で働くために必要なこととは」について「熱帯医学」「専門性」にフォーカスを当てて話しました。
引き続いて、国境なき医師団の白川優子看護師による「紛争地で見つめ直した看護の真髄」は聴衆の心を掴む、まさに圧倒的なプレゼンでした。軍用車両と救急車がすれ違っている光景、救命と戦争という正反対の行為が共存しているのが紛争地だというメッセージは説得力があると同時に、その中で迷い、しかしその後再び現地で看護とは何かという原点に立ち返ることができたという白川さんの言葉に会場はしびれました。
続いて宮崎雅医師は父の代から関わられているバングラデシュでの活動についてお話しされました。お話の裏テーマは「家族」だったように思います。優しい語り口ながら「家族で国際協力に関わるということ」についてもう一度問い直そうという鋭いメッセージは、宮崎先生だからこその説得力がありました。非常に内容の濃いプレゼンが続き、急きょ予定にはなかった小休憩を入れるほどでした。小休憩に続いて石岡未和助産師の「青年海外協力隊とNGOの経験」のプレゼンは笑いが絶えませんでした。ドミニカ共和国の青年海外協力隊員として関わられたラバマノという手洗い普及活動を通じての、「楽しくなくちゃ始まらない!」というメッセージは、その後の彼女のLISPなどイノベーションの分野との関わり方を知ればますます納得します。
緊急医療支援団体AMDAの活動における「人道援助の3原則」、国際医療協力とは、真に有用な医療の在り方を多文化との対話を通して見つけるものだという言葉に共感する方も多かったのではないでしょうか。佐久総合病院の加藤琢真医師のプレゼンでは「地域が作る医療とは何か」を「地縁から知縁となっている」現在、佐久病院の理念として振り返るのは、国際保健に関わる我々にとっても「国際保健医療に貢献します」の文言の前にある「地域づくり」なんだと、彼ならではの切り口で語っていただきました。第一部の最後は森博威医師の「マヒドン大学から地域医療のフィールドワーク」でした。タイでの寄生虫疾患を中心とした研究活動から「研究を通じて途上国に関わることのメリットと、そのために必要なこと」へと話は移り、その延長としてとちノきネットワーク参加への呼びかけで締めくくられました。
第2部では、「途上国で働くために必要なこと」「日本に帰ってから必要なこと」について、緊急医療支援、滞在型医療、保健協力など様々な立場から語り合いました。緊急医療支援団体HuMAの甲斐聡一郎先生からは、いざという時のスムーズな対応のためには職場の理解を得るための不断の努力が必要というコメントが、九州病院の米田哲先生からは金銭の問題は目をつぶってはいけない課題だ、という指摘がありました。
米田恭子助産師が口火を切り、大森薬剤師が引き継いで話題は永遠の命題である「家族の理解をいかに得るか」に行きつきました。国境なき医師団での派遣志願者家族とのやり取りのエピソードなど生々しいディスカッションを聞きながら、一方でライフステージによって国際保健との関わり方はフレキシブルに変えてよくて、日本にいてもできる関わり方はあるのだろうという意見も出ました。この話題はもっと深める余地があります。次回以降の宿題でしょうか。
どさんこ海外保健協力会・NPOクロスの楢戸健次郎先生の実践的なアドバイスはいつもながら会場全体を納得させるものがありました。受け入れ側の意見として余市病院の吉田院長のコメントを聞けたことが収穫でした。東北大学の山本嘉昭先生の「渡航前にワクチン接種を!病原体を国内に持ち込まないために」というアドバイスは、渡航医学の視点からも非常に大切なものでした。
第3部のブースでは、長崎大学熱帯医学研究所、LISP, 順天堂大学医学部熱帯医学寄生虫病学講座、佐久総合病院、余市協会病院、徳之島徳洲会病院、愛知国際病院、HuMA, HANDS, SHARE, 国境なき医師団、euphoria, jaih-s, JICA, 厚労省医系技官、マヒドン大学日本人同窓会、アジア保健研修所、厚生労働省といった、官民ごちゃまぜ、保健・医療・研究ごちゃまぜのブース出展でした。会場は熱気があふれ、さながら国際保健版レジナビといった様相でした。
このような場の提供を、ネットワークとしてこれからも続けていけたらと考えています。世話人会では本セミナーを毎年夏に東京で開催する方針も確認されました。
本ネットワークはあくまで場所を作る脇役で、皆様に育てていただくものです。これからも盛り上げていくためには皆様のご助言が必要です。今後ともよろしくお願いいたします。