とちノきの活動目標

2017年7月9日、今回のテーマは災害医療の将来とキャリア形成でした。例年通り余市協会病院の森博威先生のオープニングトークで幕を開けた今回のセミナーは、例年以上に多彩な布陣でした。

とちノきの活動目標

口火を切ったのは兵庫県災害医療センターの甲斐聡一郎先生による基調講演です。DMATやNPOメンバーとして、後方支援や現場派遣についてお話しされました。目の前だけでなく、届いていないギャップをいかに見つけ、埋めるかが大事とのお話は、実は日本で公衆衛生活動をするうえでも同じだなと感じました。フィリピンの巨大台風災害の支援では現地の習慣の理解が大事で、クリスマス休暇が最も喜ばれたという話はジョーク口調で会場からは笑いも起きましたが、甲斐先生の表情は真剣で、それが真実なんだと胸にすとんと落ちました。一方、外国の災害支援では日本の職場の理解は国内災害よりハードルが高くなる。でも困ったときはお互い様。厳しい環境での経験は日本にもフィードバックできるというメッセージは仲間への大きなエールになったのではないでしょうか。最後の「災害支援で目指す質と説明責任とは?」との問いかけ、「災害支援のためにどこまでリスクを許容するかは個人の生き方と関係してくる課題」だという指摘も印象的でした。
災害時の医療支援には様々な形があるとして引き続き行われたシンポジウムは4名の方に登壇していただきました。まずロジスティシャンの立場から谷口正弘さんにお話しいただきました。安全保障の専門家として、なかなか分かりにくいロジの役割を「隙間産業の通訳」と表現されていたのが頭に残りました。資機材の準備では重さより容積が大事という話はとても面白く、その後も複数の登壇者もその話に触れていました。
実派遣の時にあると便利な持ち物の話は実践的で、キーワードは「PCに頼らない工夫」なんだと理解しました。国境なき医師団の白川優子看護師は、昨日モスルから帰国したばかりで明日にはシリアに再渡航という超過密スケジュールの中ご参加いただきました。2010年からMSFに参加され、オペナースとして15回の派遣経験を誇る白川さんですが、意外に災害派遣は1回しかなく、私は素人です、とおっしゃる姿は私の中にある「スーパー看護師白川さん」のイメージからは予想外でした。でも、災害医療支援として参加したネパールの経験をお話しされましたが、聞き手を引き込む語り口はさすがでした。いかにロジが大切かを強調され、MSFは安全管理を徹底しているが、自然災害には紛争とは別の怖さ(紛争は予知できる面も多いが自然災害は予知できない)を感じたというお話、通常はチームのロジは1-2名だがネパール災害の時はMSFは20名派遣したという話が特に印象的でした。

とちノきセミナー

引き続いてのどさんこ海外医療協力会の大泉樹先生は、北海道ルスツ村の診療所で15年間診療業務をしつつ、診療所医師を2名体制にし、ワークシェアをしながら離島のお手伝いや国際保健活動を行っていらっしゃいます。卒業旅行でネパール・オカルドゥンガ病院で出会った伊藤邦幸先生の写真が個人的には感動しました。私自身がネパールで働いていた時、辛くなると伊藤先生の本を読みながら乗り切っていたからです。「黙ってたら来れなくなるから、2年研修したらまず出てこい」という伊藤先生の言葉は、その通りだと思います。普段の仕事、かかわりの延長に災害支援の活動もあるんだ、というメッセージは、自分たちの日本での仕事を振り返るいい機会になったと思います。
楢戸先生からは、国際災害救助への提案として、薬や手技などの標準化、マニュアル作りなどの提案がなされ、それを踏まえてシンポジウムは進行しました。
自衛隊中央病院の田村格先生から災害時に自衛隊に求められる役割とはという説明がされました。災害時にはパッケージで出られるのが自衛隊の強みという話は東日本大震災でアムダで活動していた時、僕自身も実感したことでした。要請主義という話の一方、災害派遣の3要件があり、その中でも非代替性(民間でできることはやってはいけない)という点が印象的でした。
カンボジアの帰還難民支援が最初の災害支援の経験だったという沖縄中部病院の高山義浩先生のお話では、「日常の備えの延長に災害支援がある」「パンデミックは災害そのものである」「現場で大事なのは目の前の業務に没頭している人を本来業務に戻す仕事」という様々な金言が繰り出され、目から鱗でした。日頃の業務に対してどうプライオリティを置くかを訓練せよ。今やっている仕事の意味を考えながら行動するのが大事というメッセージに痺れました。
その後シンポジストとフロアを交えての討論では、「被災地ではニーズが刻々と変わるのでフレキシビリティが大事」「日常の仕事を大事にしながら、非日常にどう備えるか」「標準化だけでなく、地域特性(地域の文脈)をどう活かすかという見方も大事」という話も出ました。年を取ってから海外に出ることで、人生経験がプラスされてより円滑に活動できる面もあるという白川さんの意見に勇気をもらえた気がしました。
大泉先生と高山先生からは、最後に、主に学生向けに「自由に旅に出よう」というメッセージが出されました。今回は初めてシンポジウム形式にトライしました。森先生と甲斐先生の両司会ぶりはさすがで、議論の流れもこれまでで一番スムーズでした。

とちノきセミナー

とちノきの活動目標

最後のブース交流では、今回から新たにジャムズネットやゲネプロ、IMSも加わり、より多彩な仲間が増えました。次のセミナーは来年7月に再び東京で行うことも決まりました。次回のテーマは、とちのきの原点回帰になりそうです。引き続きよろしくお願いいたします。

とちノきの活動目標

第2回とちノきセミナー】家族で海外で働く、地域で働く

第1回とちノきセミナー】途上国で活動する医療従事者の生の声