入会のご案内

話題になっている世界の熱帯医学、渡航医学、感染症のトピックをピックアップします。 マヒドン大学熱帯医学部 森 博威

ノルウェー人女性がタイ滞在中の鼻腔洗浄が原因でアメーバ性髄膜脳炎に罹患し死亡
【71歳のノルウェー人女性がタイに4週間休暇で滞在、帰国後に髄膜炎を発症し死亡した。ジョムティエンビーチ(パタヤ南)、チャーン島に滞在していた。普段からの鼻腔洗浄を継続しており、公共の水道水、地下水の水を使用していた。原因となったネグレリア(Naegleria fowleri)は原虫の一種でFree living amoebaに分類される。暖かい環境で水場に生育が可能(池、沼、プール)、加熱、塩素消毒、UVにより死滅するが、不純物の混入や、水道管の距離が長いと塩素濃度が下がり汚染することがある。日本でも報告があり、水場に生息している。頻度は低いが診断、治療が難しく致死率が高い。
JMM Case Rep. 2016 Jun 25;3(3):e005042.
Parasitol Int. 2005 Dec;54(4):219-21.
MedGenMed. 2004; 6(1): 2.
シプロフロキサシンに耐性を示す赤痢菌の流行
2014年10月に韓国、小児のデイケアセンターで赤痢菌のアウトブレイクが発生した。発端としてベトナムにおける感染が疑われた。検出された赤痢菌は第3世代セフェム系抗菌薬(セフォタキシム)およびニューキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン)に耐性を示していた。同様にインドからの帰国者においても、シプロフロキサシンに対する耐性菌が報告されている。第三代セフェム系抗菌薬に対する耐性の機序はESBL (Extended-spectrum beta-lactamases)産生株との報告がある。オーストリアにおいて、難民からも同様にESBL産生株、シプロフロキサシン、アジスロマイシンに対して耐性を示す赤痢菌が報告されており、帰国後の腸炎患者に対する抗菌薬の選択には注意が必要である
Emerg Infect Dis. 2015 Jul;21(7):1247-50.
Emerg Infect Dis. 2015 May; 21(5): 894–896.
Eurosurveillance, Volume 20, Issue 48, 03 December 2015
髄膜炎菌:尿路感染の原因菌としても注意が必要
ヒトに病原性のあるナイセリア属の細菌は主に髄膜炎菌N. meningitisおよび淋菌N. gonorrheaの2種類である。髄膜炎菌は髄膜炎、敗血症を、淋菌は性感染症、尿路感染を起こすことで知られている。近年、髄膜炎菌による尿道炎のケースが報告されている。尿路感染を起こした髄膜炎菌をWhole genome sequencingにより詳細に調べたところ、 Sialic acid capsuleに関する遺伝子の変化、また淋菌からの遺伝子カセットの遺伝子変換により髄膜炎菌は尿路感染に適した菌へと変化と遂げた可能性がある。
グラム染色では、淋菌と髄膜炎菌は類似しており(グラム陰性双球菌)、尿道炎の症例において、培養結果が出るまで髄膜炎菌の確定診断は難しい。淋菌に比べ髄膜炎菌は、現時点では抗菌薬に対して全般的に薬剤感受性は良好である。髄膜炎の検出時には感染対策を行う必要がある。また今後耐性菌の出現が懸念される。
J Med Microbiol. 2013 Dec;62(Pt 12):1905-6.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Apr 18;114(16):4237-4242.